でも森本さんはトランペットが下手だった。ある時1stトランぺッターの福田さんが休んで、森本さんが1stトラ ンぺットを担当したのだがそれは酷いものだった。まるで豆腐屋の安物のラッパのようだった。森本さんに ついてはある気恥ずかしい思い出がある。その当時全国的に"ノーパン喫茶"なるものが流行った。キャバ レー「メトロ」の近くにも"ノーパン喫茶"が出現したのだ。そして、森本さんが私も含めた若い奴数人にステ ージの合間に"ノーパン喫茶"へ行こうと呼びかけて、実際に行ったのだ。そんな森本さんは当時私の住ん でいた京都市山科区御陵鴨戸町の近くで"誠"という飲み屋を奥さんにやらせていた。そこに私はキャバ レー「メトロ」の若手メンバーと時々飲みに行っていた。そして何を隠そう私は森本さんの奥さんにちょっぴり "ほの字"だった。キャバレー「メトロ」では他にも当然ピアノやベースやアルト・サックスやテナーサックスの 奏者がいたが名前はすっかり忘れてしまった。そしてキャバレー「メトロ」のショーの司会者は本名は知らな い通称"ミッキー"だった。"ミッキー"は"クラブ・メトロ"でも司会をしていた。キャバレー"メトロ"では色んな 歌手の伴奏をした。思い付くまま名前を挙げていこう。浅野ゆう子、夏木マリ、大川栄策、篠ひろ子、 千昌 夫、三沢あけみ、田端義夫、フランク永井、朝丘雪路などなど。そんな経験の中でいくつか思い出すエピ ソードがある。浅野ゆう子のショーでは浅野ゆう子が女のダンサーふたりとダンスを踊るシーンがあったの だが、リハーサルの時よりその曲のテンポが遅くなってしまったらしくダンスが終わって、そのふたりのダン サーがステージの袖にはける時に、その内のひとりが鬼のような形相で吐き捨てるように　"テンポが遅 いっ!!"　と怒鳴った。曲のテンポが遅くて、凄く踊りにくかったのだろう。その責任はテンポをカウントした バンマスの"ハーゲン山田"さんか、ドラマーの私か、両方か。あと夏木マリのショーのリハーサルの時に 彼女は何故か唐突に"ピアノの音が綺麗ネ"と言った。あと千昌夫のショーのリハーサルの時に彼がショ ーのオープニングでは交響曲"ツァラトゥストラはかく語りき"の冒頭の力強いティンパニーの"ダンドン、 ダンドン、ダンドン"といった迫力のある重い音をドラマーの私に要求しようとしたのだが、千昌夫に帯同 してきた指揮者が目配せにて"この非力なドラマーにそれを期待するのは無理だ"と千昌夫に進言したのを 私は見逃さなかった。事ほど左様にやっぱり私は下手なドラマーだったのだ。            あと歌手によっては